【レポート・後編】藤井さん・岡村社長の考えるNo.3「わたしと組織の未来のカタチ」

ひとつは「ロゴス」と言って、論理で伝えることで、違う国や文化の人にもデータ・数値・ファクトで伝わるという考え方です。
もう一つは「エトス」と言われ「こういうことがこの民族の風土として育ってきた。ロゴス（論理）では説明できないが、この民族にとって倫理として重要」という習慣のようなことです。
エトスはロゴスに比べより倫理的なので「次の世代を考えると大事だよね」と共有されれば、異なる風土を超えても理解されます。
そして「パトス」があります。
パッションの語源でもあり情熱という意味はもちろん、パッシブ…受ける、そして受苦…苦しみを受ける意味もあります。
困っている人の痛みを一緒に引き受け、国や言語を超えても同じ痛みだと分かち、通じ合うことです。

国、風土、価値観を超えて通じ合う「ロゴス」「エトス」「パトス」…これらを私たちはいかに上手く活かしていくか、という方法が足りていないのかもしれません。

『TECH B-ing』（テックビーイング）というエンジニア向けの転職情報誌の編集長を長くやっていましたが、
「テクノロジー」という単語は「テクネ」「ロジー」という2つの言葉から成り立っています。「テクネ」はギリシャ語ですが、ラテン語ではアルス、英語ではアートとなるんですね。
ゴッホが有名な「向日葵」を描いたとき、ひまわりを見て描いて・見て描いて…をくり返したのですが、その度に光の角度等でひまわりが違って見えたそうです。
つまりテクネというのは二度と再現できない、一度限り・一回性のことです。一方「ロジー」は再現性があり、誰でも同じように再現できることを指します。
だから「テクノロジー」には一回性と再現性両方が入っていて、矛盾した自己同一を抱えていると知ったとき、エンジニアは大変だなと思いました。（笑）コミュニケーションでも何でも、自分だけの一回性の人生を、なんとか他の人に再現性を持って共有しようとする…それは教育や、事業活動もそうかもしれません。
みっくさんの想いを従業員のメンバーの方々になんとか再現してもらう、でも一回性も大事だし…とそこには矛盾があるんですね。

でも、本当は「佇」（たたずまい）の部分の、姿勢やひたむきさ、
それから看護師の看は手辺に目と書きますが、手で触って「これから注射しますよ」というと痛みは全然違うそうなんです。
そういう身体的なものから僕らはやっぱり逃れられないのかなと思っています。

その上に「気」とありますが、「リング」や「らせん」（※大ヒットホラー小説。映画化もされた）を書かれた鈴木光司さんのインタビューで、
「お化けは人間の前後、どの辺りに立っているとき一番怖いと思いますか？」と訊かれて（笑）、「やっぱり、後ろですかね？」と答えたら本当だそうで、
目の水晶体には色や形が確認できる”ある角度”というのが存在していて、後ろ45度・25センチに人が立っていると身の毛がよだつんだそうです。
人間って見えないけれど見えそうなところ、をすごく感じますよね。

それで言うと、「幽か（かすか）」鬼神・祖霊と書いていますが、亡くなったおじいちゃんおばあちゃんが見てくれているという感覚は、人が頑張る力になるんです。

オンラインで十分という風潮は、とても大事な他3つのシンタイ性が全部なくなっちゃうと感じています。
世阿弥の言った「離見の見」の意味で「観」を左下に書いていますが、自分から幽体離脱し上から自分を見るような目、どこかから見守られている感覚で、
そういうものがないと働く空間はイマイチになる。

真ん中に書いた「息」は自分に心と書きます。心をもっと柔らかくして、行き来することが大事ですよね。
実は、これを書きながらみっくさんの『TRAFFFIC』を思い出しました。
（※ウエダ本社・RELEASE;が営む、日本～世界の多様な地域文化を背景とあたらしい働き手の拠点とするINTER-LOCAL WORK STATION）
人の思いや体が、交流し行き来していますよね。そういうことが組織や働くにとって大事なのではないかという気がします。

組織には存在性と効用性という2つの駆動原理があります。
家族では、たとえ子どもの足が遅くても他の子どもにとっかえるなんてことはないように「居る」ということが大事ですよね。
でもそれが大リーグだったら、先発ピッチャーが肩壊したらピッチャー交代するように、「できる」ということが大事な駆動原理になります。

いまは「できる」ことばかりが求められていて、成果が上司や周囲から見てぼんやりとしていると「君なんかいらないよ」と無言で言われていうような感じがしてしまう。
でも、やっぱり「月曜日も君がいないと始まらないから待ってるよ！」と言われたいですよね。

コレクティブ・ジーニアスという言葉がありますが、一人の天才が何かを作るのではなく、一人ひとりは普通の人が高い志で集まり、習合し編まれると天才になっていく。
その編集をする時に、野中郁次郎さんのSECIモデルで言われるように共同化→表出化→連結化→内面化をぐるぐる回すと面白い組織が生まれてきます。

私の言葉で言い換えると、まずは、社会の傷んでいる部分、解決したい不に対して、体ごと憑依していく感覚があります。
次に、可感化と書いていますが、見るだけではなく身体的にも感じ、表出化する必要があるということです。
そして、異なる人同士が共鳴し、最後は、得られた共通知を身体化するまで磨き続ける。
リクルートでも、創発する事業は、このサイクルをぐるぐる回しています。

真ん中に「政と祭」と書いたのは、創発する事業は、をガバナンス（政）として権力ある人（弊社なら圧倒的な当事者）に集中しますが、
一方で、祭りごとと言って、権力を分散もさせているのです。蕩尽（とうじん）と言って「今日は無礼講だ！」とみんなに力も富も分散させている。
つまり、コスモスとカオス、秩序と無秩序を行ったり来たりししながら習合していくと、すごい面白いものが生み出されるのだと思います。

この習合するときには、「場」が必要になってくるんですよね。
身体的に感じる場。現「場」とか職「場」とか、「場」がもつ力はすごく大事ではないでしょうか。

1つ目は方向を表す「カタ」ですが、これは分散化傾向にあります。
働く場所や時間はもちろん、一人ひとりのキャリア観も多様になっていますよね。学・遊・働…学びながら、趣味をしながら、働きながらというのが一緒になってきます。
2つ目は相手方（ガタ）…すなわち仲間のことです。
いつもと違う人と対話することで新しい気づきが生まれますが、3つ以上のコミュニティを持っている人のほうが、未来へのキャリア展望が明るいと言われています。
そして3つ目は本人という意味です。
従業員という言葉のごとく、今までは目の前の人や物事に従いすぎていました。これからは「シュギョウイン」の時代です。
主人公という言葉は「主」「人」「公」で構成されていますね。自立して、目の前の人にも公にも貢献していくようになっていくのではないでしょうか。